毎週木曜日に発行されている週刊誌『週刊文春』内で脚本家の宮藤官九郎さんが執筆しているコラム「いまなんつった?」。
宮藤さんがドラマ制作の舞台裏を包み隠さず、時にやさぐれたり自虐したりしながら語っているコラムで、毎回楽しみにしています。
2月16日の発売号では、宮藤さんの作品が全世界向けサブスクサービス『Netflix』にて解禁されたことへの想いを語っているのですが、普段ならゆるい感じで終わるコラムが珍しく熱い内容になっていたので紹介したいと思います。
(画像:時事通信フォト)
■名作『IWGP』がNetflixで“再ブーム”も宮藤官九郎自身は…
宮藤さんはテレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系列)や『木更津キャッツアイ』(TBS系列)、『あまちゃん』(NHK)など数多くの名ドラマを手がけてきたことで知られていますが、最近はNetflixでの作品解禁を受け、ランキングに入っていることを知らされる機会も少なくないそうです。
中でも『池袋ウエストゲートパーク』通称『IWGP』は宮藤さん作品で最もファンに愛されていると称されることも多く、『IWGP』を懐かしがる人々だけでなく、当時を知らない若者世代の間でも人気に火がつき始めているんだとか。
そんな現状を受けて、宮藤さんは「過去の作品が配信され、おかげさまで好調みたいです」と現状に触れた後、「もちろん嬉しい。でも正直そこまでピンと来ません」と率直な心境を吐露。
「『池袋ウエストゲートパーク』に至っては、23年前だもの。(池袋)西口公園、今じゃすっかりキレイになってクラシックのコンサートやってます」と、撮影時のロケ地が過去と現在とで変貌を遂げていることにも触れました。
■“IWGP世代”の人々は「Netflixのコアな視聴層」
宮藤さんは「リアルタイムで見てないけど、ドラマに後追いでハマる経験は誰しもがある」と記し、今回の『IWGP』のような“社会現象”は決して珍しいことではないという意見を発します。
コラムでは、「1970年生まれの僕にとってそれは」と具体的な作品名をあげ、さらにNetflixに配信をお願いしたい作品名もあげながら思いを綴っています。
今ではコンプライアンスの関係で放送できなかったようなシーンも頻繁に使われており、当時を知らない若年層に言わせると『なんだこれ!?』といったようなインパクト抜群のカルチャーが描かれています。
それぞれのキャラクターや細かい設定も魅力的で、ある種の“斬新さ”を感じてハマっていく若者も少なくないのでしょう。
加えて、『IWGP』がリアルタイムで放送されていた当時に多感な中高生だった世代は今や30代半ばから40代前半となっています。
宮藤さんは「Netflixのコアな視聴層ですよね」と再び人気に火がついた要因を推測しました。
当時を懐かしむだけでなく“初見”の視聴者もその魅力に取り憑かれていることから、当時の若者にとって“カッコいい”と羨望の眼差しを送る対象だったキャラクターは今の若者にとっても憧れの対象であるのかもしれません。
■宮藤官九郎、IWGPブームに悔しさ「最も潰したい若手」闘争心むき出し
こうしてNetflixを通して再び人気を博している『IWGP』。
ちなみに、当時出演していたのは長瀬智也さん、加藤あいさん、窪塚洋介さん、坂口憲二さん、小栗旬さん、山下智久さんなどスターばかり。
宮藤さんは出演キャストに触れながら「改めてIGWP、確かに役者は素晴らしいけど」と前置きした上で、「脚本はそんなにすげーか?今の俺の方がすげーし、と半ば悔し紛れで思っちゃう」と、コラム後半で悔しさを感じていることを吐露。
さらに、「『いやいや、昔の宮藤さんのほうがすげーっす』『今、そうでもねっす』『もうピーク過ぎてるっす』。面と向かってそんなこと言ってくるヤツはいないけど、思っているヤツが沢山いるんだろうな。だからせめて自分くらい、今の俺を最高だと思いたい」と赤裸々に想いを記した宮藤さん。
NHK大河ドラマ第58作『いだてん〜東京オリムピック噺〜』が不評とされていた放送当時、このコラムで辛そうなコメントをすることもしばしばでした。
ネットの酷評を目にするのが辛く、「ネット検索は医者に止められてる」といった主旨の自虐を綴っていたことを記憶しています。
そういった経緯があるからでしょうか、この分析と鼓舞に宮藤さんの剥き出しの感情を感じます。
最後は、「過去の俺はライバルであり、最も潰したい若手なんです」と熱い表現でコラムを締め括りました。
ネット上では、「NetflixでIWGP配信されたから観た!やっぱ面白いな…」と放送時の“リバイバル”感覚で視聴する方や、「全然古さを感じなかった、むしろかっこよかった!」という新規の方など、多様な方々が『IWGP』を視聴していることが伝わってきました。
他にも「スラムダンクにIWGPに、こうなんていうか世の中の懐古がすごい」といった意見も見られています。
自身の過去の作品が“再ブーム”を巻き起こしていることに複雑な心境を明かした宮藤さん。
常に「今の自分」が最高だという自信だけでなく、ある程度の評価を得てもなお向上心と闘争心を持ち続けるハングリーさがこちらにまで伝わってきますね。
『週刊文春』は毎週木曜日発売です。
【書籍情報】
週刊文春 『いまなんつった?』
(文:横浜あゆむ/編:おとなカワイイwebマガジンCOCONUTS編集部)